町家をトーク 左官編

月に一度、町家の職人さんが先生となる町家の学校「町家をトーク」。
今回の町家をトークのテーマは左官。ヒグチの父親も左官職人ということで馴染み深いこのテーマ。去年の左官の回では壁塗り体験コーナーに真っ先に立候補し、土壁をポッテリ落として飛び散らした虎舞竜が昨日のことのように今ハッキリと思い出します。 
今回の先生は佐藤左官工業所代表の佐藤ひろゆきさんで主に茶席や数寄屋建築の「土壁」を施工する職人さんです。
「土壁」とはもともと粗末な材料として、下地であったり庶民的な仕上げとして使用されたものなのですが、これをなんと床の間(書院造)に使って、「えー!ととと床の間に土壁てー!」と当時の建築界に一大センセーショナルを巻き起こしたのが、茶聖と呼ばれたカリスマ坊主、千利休。
茶の湯の世界で使われる「真・行・草」という言葉。
これは書道の「真」楷書、「行」行書、「草」草書という三段階を茶の湯の世界にあてはめたもので、茶室の建築様式や掛け軸、道具類などすべてを「真」なら「真」の雰囲気でフォーマルに統一するのがオシャレとされており、「真・行・草」が混じっていようものなら、結婚式にビーサン(または入学式にジーンズ)で出席するようなものとされ、茶の湯の心を理解しないダサイ野郎とされるのです。
こうして千利休が認めた「土壁」は、「千利休がええと言うてたー!」ということで、当時のオシャレ系デザイナーに「よく見ると良くね?」とか「この感じ逆に良いね!」 などと言われ始め「今もっともクールな材料-TSUCHIKABE-」として世間に認められる様になったのでした。
こうして利休はマイナーな材料「土壁」を草庵風の茶室の壁に用いることで、利休のわび茶の世界を表現する構成要素にまで高めたのです。
  

こんなに沢山の道具(鏝)があります。左官職人は素手で仕事をすることを恥とし、あらゆるパターンにも対応する道具が開発されたそうです。
しかし周りに誰も見てなければ、指でちょいちょいっとなんてこともあったのでは・・・。

  こんな小さい道具もありあます。持ち手のクルクル装飾がナイス。

 黒漆喰のテカテカ壁。繊細かつパワフルに何度も押さえるとこんなにテッカテカに。

いろんな色がありますが、これなんとすべて土壁。産地や鉄分の量などで色にバリエーションが生まれます。

佐藤先生によりますと左官技術がピークを迎えたのは明治中頃で、それ以降は残念ながら緩やかに衰退しているとのこと。
利休によってその地位を高められた土壁は現在、再び単なる下地程度としてしか認識されなくなってしまったのです。

子供の頃、父親に連れられて現場にいくと土壁はよく見かける材料で、壁の仕上げ部分を剥がすと必ず茶色い土の壁が出てきたものです。それぐらい当たり前の下地材料だった土壁は現在ではボード類に取って代わられ本当に見かけなくなりました。

 土壁はリサイクル可能なエコな材料だし調湿機能や断熱性能に優れております・・・・
などというのは後付の付加価値でしかなく、千利休が400年前に表現した全てをそぎ落とした後に残るギリギリの緊張感。
そんな見る者の魂を鷲掴みにするような魅力こそ土壁のもつ美しさ、写真には写らない美しさだと思うのです。

今回の左官職人:佐藤ひろゆき先生の本

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